紀元前297,845年
石が割れた。
思った通りの角度ではなかった。欠片が三つに飛んで、一つは足の甲に当たった。その者は声を出さなかった。足を見た。皮膚が赤くなっている。血は出ていない。
また石を拾った。
今日で何度目かは数えていない。数えるという行為をその者は持っていない。ただ、昨日より腕が重いことを知っている。筋が張っている。それでも手は動く。
岩盤の露頭に座り込んで、膝の上に石を置く。打ち石を右手に握る。当てる。割れ方を見る。また当てる。
集団の声が遠くで聞こえる。水場の方角だ。争っている声ではない。朝の、ただのざわめきだ。その者はそちらを見ない。
欠片の一つを拾い上げた。縁が薄く、光が透ける部分がある。その者は指先でその縁をなぞった。左の親指の腹が、ほんの少し開いた。血が一本、細く走った。
その者は指を口に含んだ。
血の味がした。
それから、その石片を地面に置いた。置いて、また拾った。また置いた。
何かが違う、という感覚は言葉にならない。言葉がないからではなく、その感覚がまだ輪郭を持っていないからだ。ただ手の中に、それがある。薄さと鋭さが同時にある。
遠くで旧人の群れが移動している気配がした。風向きが変わった。その者は鼻を動かした。獣の匂いではない。別の集団の、体の匂いだ。
その者は石片を握ったまま、立ち上がらなかった。
座ったまま、風の来る方を向いた。
膝の上の石片が、朝の光を受けて白く光った。その者の目がそこに戻った。指先がまた縁に触れた。今度は当てる角度を変えた。
皮膚が再び開いた。今度は深く。
その者は傷口を見た。しばらく見ていた。それから岩盤に手をついて、傷口を岩に押しつけた。痛みが来た。声が漏れた。短い声だった。
それでも石片を手放さなかった。
乾季が長引いている。
水場の水位が下がり、草原の南端で枯れ草が帯状に広がっている。集団は水場に近い岩陰に集まる時間が長くなった。481の者たちが、その多くを一箇所に寄せている。
旧人との接触が増えている。領域の重なりが生じている。声の張り合い、投石、威嚇。まだ死者は出ていないが、緊張は毎朝少しずつ積み重なっている。子どもたちは大人の後ろに隠れる時間が増えた。
その者は、毎朝そこにいない。
水場でも岩陰でもなく、東の露頭に向かう背中を、誰かが見送るわけでもない。ただ朝になるとその者がいなくなり、昼前に戻ってくる。手に欠片を持っていることもある。持っていないこともある。
集団の中で誰も問わない。答える言葉を誰も持っていない。
指先に繰り返し傷を作り、岩に手をついて、それでも石片を離さない者が、東の方角に存在している。この星はそれを照らすだけだ。
旧人の群れの足跡が、水場の泥に残されている。夜のうちに来て、夜のうちに去った跡だ。
石片の縁に光を落とした。
薄さと鋭さが同時にある場所に。
その者は指で触れた。傷が開いた。血の味を確かめた。それでも持ち続けた。
渡したのは、鋭さではなかった。傷と鋭さが同じ場所にあるという、その感触だった。
何かが届いたのかもしれない。しかしそれが何であるかを、この者はまだ言葉にできない。言葉を持っていないからではなく——
いつかそれが名前を持つ日が来るとしたら、最初の傷は誰の手の上で開いたのだろう。