紀元前299,880年
破片を見つけた者がいた。
その者が残した二つの破片を、若い者が拾った。一つは手に馴染んだ。もう一つは鋭く光った。若い者は古い石を捨てて、破片だけを持ち歩くようになった。削るための片と、叩くための片。用途が分かれた。
別の者も気づいた。破片で削った木の枝は滑らかだった。普通の石では届かない細かさまで削れた。獲物を突く先端が鋭くなった。獲物が逃げにくくなった。
破片を持つ者が増えた。持たない者との差が現れた。獲物を獲る回数。削った道具の精度。作業にかかる時間。
鬱蒼とした森では、背の低い頑丈な者たちが実を集めていた。硬い殻を割るのに、いつものように石を叩いた。時間がかかった。隣の集団では、鋭い破片を使っていた。殻が簡単に開いた。実を食べる時間が長くなった。
大河の近くでは、額の張り出した者たちが魚を突いていた。木の先端を削る作業が続いていた。石で削れば日が暮れた。破片で削れば陽が高いうちに終わった。魚を突く時間が増えた。
凍てつく高地では、新しい種の集団が毛皮を剥いでいた。石の刃では毛皮が破れやすかった。破片の刃では綺麗に剥げた。暖かい夜が増えた。
この星の上で、同じ作業をする者たちの間に、時間の差が生まれていた。
石が二つになった瞬間から、五年が経った。
破片が手から手へと移っている。使われている。
糸は続いている。でも何かが変わった。
朝、目を覚ますと手が痛かった。石を握ったまま眠っていた。いつからそうしているのか覚えていなかった。
破片を手放せなくなっていた。歩く時も、食べる時も、どちらか片方は必ず握っていた。
集団の他の者たちも変わった。みんな破片を持つようになった。持たない者は少なくなった。最初は二つしかなかった破片が、いつの間にか十以上になっていた。どこから来たのかわからなかった。
気づいた時には、みんな破片で作業をしていた。
その者の手は、もう普通の石を受けつけなかった。握っても違和感があった。重すぎた。鈍すぎた。破片に慣れた手には、普通の石がもどかしかった。
ある日、別の集団と出会った。彼らは普通の石を使っていた。作業が遅かった。木を削るのに時間がかかっていた。
その者は破片を一つ、相手に差し出した。相手は首を振った。理解できないようだった。
その者は木の枝を取って、自分の破片で削った。滑らかになった。相手に見せた。相手の目が変わった。手を伸ばした。
破片を握った瞬間、相手の顔が変わった。驚きではなかった。認識だった。これが欲しかったもの、という顔だった。
その者は気づいた。破片を求める気持ちは、誰にでもあった。でも破片がなければ、その気持ちも眠っていた。
破片を見た瞬間、求める気持ちが目を覚ました。
三日後、その集団は全員破片を持っていた。どこで見つけたのか、その者にはわからなかった。でも確実に増えていた。
その者は思った。破片は増えるものなのかもしれない。欲しいと思う心があれば。
五年目の冬、その者は眠りから覚めなかった。手の中には、二つの破片があった。右手に大きい方、左手に小さい方。五年前と同じように。
でもその者が握っていた破片は、もう二つだけではなかった。集団中に広がっていた。さらに遠くへも向かっていた。
その者の死後、破片を持たない集団を見つけることは難しくなった。