紀元前297,725年
台地の南に、水が溜まっている。
岩盤の割れ目から染み出した水が、くぼ地に集まり、半月の形をした浅い池になっている。雨季が長かった。水はいつもより広く、縁の泥は柔らかく、鳥の足跡が幾重にも重なっている。
北の尾根には、朝の霧が低く流れる。草原との境目で、霧は白く溜まり、やがて散る。散った後に残るのは、露に濡れた黒い岩と、その岩に張り付いた薄い苔だ。
この五年、ここに多くの体があった。
生まれた体もある。消えた体もある。五年という時間の中で、集団の形は変わり、変わりながら同じ場所に留まっている。
谷の向こうに、別の体がいる。
旧人の集団だ。二十余りではなく、今は三十を超えている。増えた。水場が豊かなこの時季、彼らもここへ向かっている。足跡が、泥に残っている。ひとりの足跡ではなく、群れの足跡だ。重なり合い、泥をこね、半月の池の縁まで続いている。
彼らは夜、火を持たない。
昼、彼らは石を使う。打ち欠くのではなく、岩に岩を叩きつける。形を変えようとしているのではなく、割ることで鋭くしようとしている。鋭くした石を、木の枝に縛る。縛るものは、腸の膜を乾かしたものだ。膜が乾くと締まる。石が枝に固定される。
それを、彼らは狩りに持っていく。
人類の集団は、この三日、池に近づいていない。近づかないのは、旧人の足跡があるからだ。足跡を見て、方向を変えた。方向を変えたのは、特定の誰かの判断ではなく、集団全体が同時に変えた。先頭が止まった。後ろが重なった。しばらく止まった後、横に曲がった。
曲がった先に、別の水場はない。
その体たちから、一つが消えた。
老いた体だった。水を探す途中、崖の縁で足を踏み外した。崖は深くなかった。だが岩は硬く、落ちた体は起き上がらなかった。誰かが崖の縁に来て、下を見た。しばらく見ていた。それから、離れた。
水が減っていく。
旧人の集団は、池の縁に座っている。飲んでいる。飲みながら、互いの毛を手で分けている。手が動いている。静かだ。
南の空に、薄い雲が流れる。雲の向こうに何があるか、どの体も知らない。
池の縁、半月の形の内側。
水面に、光が落ちた。
光は一点に集まり、揺れた。その場所、旧人の集団が飲んだ場所のすぐ隣、泥の中に、石が一つ沈んでいた。割れた石だ。誰かが打ち砕いた断面が、泥の外に出ている。縁が鋭い。
光が、その断面に当たった。
この者は遠くから池を見ていた。その光を見た。視線が止まった。
止まった視線は、すぐに別のものへ動いた。
この者は、光のことを忘れた。
——渡したのに。
いや、渡せていなかったのかもしれない。光は落ちた。断面は光った。だが、この者の手は動かなかった。前の者たちも、手が動かなかった。渡したものが何になるかではなく、渡せているかどうか、それだけを、もう少し問うべきかもしれない。
遠くから池を見ていた。
旧人の体が、水を飲んでいる。毛が動いている。音がしない。
足が、少し後ろに引いた。引いたままで、止まった。
水が欲しかった。喉の奥が締まっている。だが足は動かない。
岩の陰に、腰を下ろした。
空を見た。雲が動いている。水の音がした。池の縁で、鳥が羽ばたいた。