雨が来た。
草原の端から、匂いが変わった。乾いた土が湿気を吸い込み、赤土はみるみる黒くなっていった。遠い稜線の上に雲が積み重なり、光が斜めに差し込む前に、最初の雫が落ちた。
その者は雨を知っていた。しかし、こんな雨は知らなかった。
大地の割れ目に水が入り、草の根が緩み、地面が柔らかくなって獣の足跡が深く残るようになった。水辺が広がり、小さな窪みが池になり、集団の子どもたちが水を飲んで走り回った。集団はゆっくりと、しかし確かに増えていった。新しい命が増えるより早く死ぬことが、少し減った。それだけのことが、大きく変えた。
その者は13歳になるかならないかで、集団の端に居場所を持っていた。
大人ほど力がなく、子どもほど守られもしない。半端な位置で半端な仕事をした。果実の場所を覚えること。水が飲める場所と飲めない場所の区別。年長者の声が短く鋭くなるとき、何かが近くにいるということ。
雨が続いた季節、果実は重く垂れていた。その者は腕を伸ばして実をもぐ。口の中に甘みが広がる前に、種を感じる。硬い、小さい、核のようなもの。呑み込まず、手に持って歩いた。なぜそうしたのかはわからない。
草原の反対側では、別の集団が移動していた。
彼らも雨を受けていた。水辺に近づいてきた。食べるものが増えると、人は増え、増えた人は新しい場所を探す。境界は線ではなく、圧力だった。どちらが先にそこにいたかより、どちらが多いかが問題になりはじめていた。
その者は年長者たちの声が変わったことに気づいていた。
いつもの短い叫びとは違う。意味のある音ではなく、音の出し方が変わった。喉の奥で鳴らす低い音。口を閉じたまま続く振動。体が緊張するときに出る音だと、その者は経験で知っていた。
手の中の種を握りしめた。
ある夜、集団の中心に大人たちが集まって火を囲んだ。その者は外側にいた。輪の内側に入る年齢ではなかった。声が低く続いた。身振りがいくつか交わされた。方向を指すもの。距離を示すもの。何かを押しのけるような動き。
翌朝、年長者の一人がその者の腕を取った。動け、という身振りだった。しかし行先は採集に出るときの方向ではなかった。
集団が、その者を連れて、別の方向へ動いた。
川沿いの低地に入った。草が高く、湿った土が足首を沈めた。その者は歩きながら、後ろを振り返った。来た方向に、何かがいるような気がした。何もいなかった。草が揺れた。風かもしれなかった。
日が高くなるにつれて、大人たちの足が速くなった。
子どもが遅れると引きずるように連れていった。その者も引かれた。なぜ速く動くのかを問う言葉を、その者は持っていなかった。問う形の音を、まだ知らなかった。ただ速く動くことと、遅れることへの恐れだけがあった。
川を渡った。水は腰まで来た。冷たかった。
対岸に上がった後、その者は手の中の種が消えていることに気づいた。川の中で流したのだった。手を開いて、何もない掌を見た。
集団は岩場に入って止まった。
夜になった。火は小さくした。音を出す者がいなかった。子どもが泣き始めると、口を塞がれた。その者は岩に背をつけて座っていた。
遠くから声が聞こえた。
それは集団の声ではなかった。別の音の出し方。別の口の形から来るような、似て非なる声。その者は息を止めた。
声は近づかなかった。
朝になり、年長者の一人が岩場から出て偵察した。しばらくして戻ってきた。体の緊張が少し解けていた。それを見て、集団のほかの者たちも少し解けた。
その者の体も、少し解けた。
その後しばらく、集団は岩場の近くで動いた。採集の範囲を狭めた。水辺には一人で行かなくなった。必ず誰かと二人で。
その者はある日、川岸の石の間に白い土があることを見つけた。
雨で洗われて露出していた。手につけると、白くなった。なぜかわからないまま、腕に塗った。白い線が腕に残った。消えなかった。擦ると少し薄くなるが、完全には消えなかった。
その者は岩に、その白い土を塗ってみた。何も起きなかった。
しかし翌朝、その者はまた岩のところへ行って白い跡を触った。
集団内の緊張は、じわじわと積み重なっていた。
別の集団との境界は見えない。しかしそこにある。食べるものが多くなると争いが減るとは限らなかった。むしろ近づく余裕が生まれた。近づくことで、接触が増え、接触が摩擦を生んだ。声の出し方が違う者、匂いの違う者、動きの速さが違う者。
年長者の中の一人が、別の集団の若い者を殺した。理由は後から語れるものではなく、その場の圧力だった。岩と岩が触れるような、ただ近くなりすぎたこと。
その者はそれを見た。
見て、理解せず、しかし体が理解した。足が後ろに動いた。心臓が速く打った。岩を拾った。何のためかわからないまま、拾って、持っていた。
年長者の目が、その者の方を向いた。
それは見るな、という目だった。知るな、という目だった。言葉なしに意味を持つ目があることを、その者はそのとき初めて理解した。
岩を置いた。
しかし目が合ったことは、消えなかった。
その後、集団の中でその者の扱いが少し変わった。すぐには気づかなかった。しかし食べるものを分けるとき、その者の順番が遅くなった。採集に出るとき、その者が呼ばれない日が増えた。
その者は一人でいることが増えた。
雨の季節が終わりに向かい、草が低くなりはじめた頃、その者は集団から離れた。
離れた、のではない。
集団の方向が変わり、その者はついていかなかった。いや、正確にはついていけなかった。後ろを歩いていたとき、前との距離が開いた。開いたまま、誰も止まらなかった。その者は歩みを速めようとしたが、年長者の一人が振り返って、一度だけ低い音を出した。
来るな、という音だった。
その者は止まった。
集団は草地に消えていった。
その者は長い間、同じ場所に立っていた。足の下の土が温かかった。雨上がりの匂いがまだ残っていた。腹が空いていた。
白い土を塗った腕を見た。薄くなっていたが、まだそこにあった。
歩き始めた。集団が消えた方向ではない。川の方向へ。水辺に近い、低く茂った草の中へ。
その者がどうなったかを、遠くから見るなら:
草が揺れた。しばらく揺れた。それからしばらく揺れなかった。