紀元前296,765年
雨が戻ってきた。
大地の南側では、乾いた台地に水が走り、割れていた赤土が閉じていった。草が先に戻り、次に虫が戻り、虫を追って鳥が来た。鳥を追って獣が来た。群れは動き、その後を人が追った。
北の密林では別のことが起きていた。二つの群れが同じ川岸で鉢合わせた。一方は体が大きく、眉の骨が張り出していた。もう一方は細く、声が高かった。どちらも引かなかった。しばらく唸り合い、石を打ち鳴らし合ったが、夜が来ると両方とも別々の場所で火を燃やした。朝になると大きい方の群れはもういなかった。川だけが同じように流れていた。
平原の遠くでは、何かが腐って土に還っていた。それが何だったか、近くに誰もいなかった。
始まりの大地では子が増えた。乳を飲む声が増え、泣き声も増えた。腹が満たされると、人は動く前に少し止まるようになった。座って、空を見た。火を囲んで声を出し合った。別の誰かが声を返した。意味はなかったかもしれない。それでも声は行き来した。
草原に夕立が来るたびに、虹が出た。この星はそれも照らした。誰も見ていなくても。
糸が繋がった。
六歳の、まだ小さい体に。
渡したのは——草の穂だった。風がその穂先を揺らした。ちょうど子どもの視線の高さで。
子どもは穂を見た。手を伸ばして触れた。指の腹に細かい毛が引っかかった。穂を引いて、ちぎって、口に入れた。味はなかった。それでも噛んだ。
また渡すべきものがある。次は何を揺らすか。穂を食べた、ということはまだ記憶を持っている、ということか。記憶が続くなら、次も届くかもしれない。答えは、まだない。
草が揺れていた。
その者は指を開いて穂を包んだ。穂は手の中でくすぐったかった。離すと、また揺れた。もう一度掴んだ。離した。また揺れた。
それを何度も繰り返した。
後ろで誰かが呼んでいた。集団が移動する声だった。でもその者は草を見ていた。穂が揺れるたびに、胸の中で何かが動いた。恐怖ではなかった。痛みでもなかった。
どちらでもない、何かだった。
集団の声が遠くなった。その者は立ち上がり、走った。走りながら一度だけ振り返った。草は揺れていた。風だった。それだけだったかもしれない。でもその者の足は少し遅くなった。
夜、火の近くで丸くなりながら、目を開けたまま暗がりを見ていた。手の中のくすぐったさが、まだ残っていた気がした。
残っていないかもしれなかった。
でもその者は手を握った。もう一度、開いた。