紀元前299,760年
額の張り出した者たちが川の下流で何かを見つけた。手で掬い、匂いを嗅ぎ、仲間を呼んだ。それは魚だった。しかし普通の魚ではない。腹が異様に膨らみ、目が濁っている。
その者は岩の上から、遠くで起きていることを見ていた。あの者たちが何をしているのか、わからなかった。ただ、いつもと違う動きをしているのがわかった。慌てているように見えた。
川の水が濁り始めた。最初は薄い茶色だったが、時間が経つにつれて濃くなっていく。上流で何かが起きている。雨は降っていない。それなのに水がこんな色になるのは、おかしい。
仲間の四人も気づいていた。一人が川に近づこうとしたが、別の者が腕を掴んで止めた。危険を感じていた。
山の向こうから、低い唸りのような音が聞こえてきた。地面が震えているような気がした。獣の足音にしては大きすぎる。雷にしては長すぎる。
その者は立ち上がった。仲間たちも同じように立ち上がった。皆、同じ方向を見ていた。音が来る方向。
川の水位が上がり始めた。濁った水が岸を越えて、草地に染み込んでいく。下流にいた額の張り出した者たちが、高い場所に向かって走り始めた。
走る姿を見て、その者も理解した。逃げなければならない。
音が大きくなった。山の向こうから、茶色い水の壁が現れた。木も石も一緒に飲み込んで、こちらに向かってくる。
五人は走った。足がもつれそうになりながら、岩だらけの斜面を駆け上がった。息が切れた。胸が痛んだ。それでも止まらなかった。
水が全てを飲み込んだ。さっきまでいた場所も、いつも食べ物を探していた茂みも、夜に体を休める窪みも、全部消えた。茶色い激流が、記憶ごと押し流していく。
高い岩の上から見下ろすと、別の集団の姿も見えた。額の張り出した者たちも、背の低い頑丈な者たちも、皆同じように高い場所に逃げていた。種は違っても、水から逃れる姿は同じだった。
一日が過ぎた。水は引かない。腹が鳴った。口の中がからからになった。それでも岩を降りることはできなかった。
遠くの岩の上にいる額の張り出した者たちが、手を振っていた。その者も手を振り返した。言葉はわからない。でも同じ状況にいることは、わかった。
夜が来た。水の音は止まない。暗闇の中で何かがぶつかる音がする。大きな木が流れているのか、岩が転がっているのか、見えない。
明け方、仲間の一人が動かなくなっていた。息はしている。でも目を開けない。昨日から何も飲んでいない。体が限界に近づいているのかもしれない。
水が少しずつ引き始めた。しかし完全に引くまで、更に長い時間がかかった。その間、動かない仲間は二人になった。
岩を降りた時、足が泥に沈んだ。見慣れた景色は全て変わっていた。知らない場所に立っているような気がした。
泥の中に、死んだ魚が散らばっていた。鳥も、小さな獣も、皆同じように動かなくなっていた。水が引いた後の世界は、死の匂いで満ちていた。
遠くの岩にいた額の張り出した者たちも、ゆっくりと降りてきた。人数が減っているのがわかった。こちらと同じように、誰かを失っていた。
その者は泥だらけの地面に膝をついた。いつもここで水を飲んでいた。いつもここで魚を捕まえようとしていた。でも今は、何も残っていない。
動かない二人の仲間は、まだ息をしていた。でも起き上がることができない。このまま放っておけば、死んでしまうかもしれない。
歩き始めた。三人だけで。動かない二人を背負って。新しい水場を探すために。
水が全てを変えた。
それでも続いていた。