紀元前296,165年
草原の東で地面が沈んだ。
雨が降ればそこに水が溜まる。干上がれば泥が固まる。
草が生え、獣が水を飲みに来る。地は変わり続ける。それだけだ。
始まりの大地の南端では、別の集団が三つの丘を挟んで獣の群れを追っていた。毛足の長い獣で、角が二本。その集団に旧い者が混じっている。旧い者と新しい者が同じ方向に走る。声が違う。骨格が違う。走る速さも違う。しかし同じ獣を追っている。
北の岩棚では子どもが五人、火の周りに座っていた。大人が戻らない夜、その中の一人が枯れ枝をくべ続けた。火は消えなかった。朝になって大人が戻り、子は何も言わなかった。
東の沈んだ土のそばでは、水が溜まり始めていた。
まだ浅い。腰まで届かない。
しかし魚が入ってきた。川から流れてきた、小さな魚が。
空は晴れていた。
草は伸びていた。
三十四歳の者と三十九歳の者は、同じ草原で同じ太陽の下にいた。
草と水の境目に光が落ちた。
午後の光で、影が長かった。その影の先に、小さな魚が動いていた。
この者は光を見た。
それから水に近づいた。
魚は逃げなかった。浅い水の中で動いた。
この者は手を伸ばした。
手が届かなかった。
もう一度。
届かなかった。
水の中の魚は捕れない。ではどうするか。
渡したのは位置だ。届かないことも一緒に渡した。
届かないことが、次を作る。
届かないという感覚を、この者が持っていられるかどうか。
水が増えた。
東の低いところに、数日前から水が溜まっていた。その者は荷を背負って水の縁を通るたびに、足が濡れた。濡れた足が乾くときの冷たさを、好きではなかった。
ある午後、光が水面に落ちた。
影が長く伸びて、水の中に入った。
その者は立ち止まった。
影の先に、小さく動くものがいた。
魚だと分かった。魚は知っていた。川で見たことがある。しかし川は遠い。ここにいるのはなぜか、考えなかった。ただ、いる。
手を伸ばした。
水が冷たかった。魚は動いた。指の間をすり抜けた。
もう一度。すり抜けた。
もう一度。泥が舞い上がり、何も見えなくなった。
その者はしゃがんだまま、しばらく水を見た。
泥が沈むのを待った。
魚は戻ってきた。
手では捕れない。
その者は立ち上がり、岸に落ちている枯れ枝を拾った。
先が細かった。
水に向かって突いた。外れた。
もう一度。外れた。
何度か試して、やめた。
その日の夜、火の番をしながら、その者は枝を持っていた。
先を火に近づけた。焦げた。焦げた先を石で削った。
削ると尖った。
削った。また削った。
火が揺れた。
削ることをやめて、火を直した。
朝になった。
枝は床に転がっていた。
その者は枝を拾った。拾って、水のほうへ歩いた。
水のそばに来た。
魚がいた。
枝を水に向けた。
集団の中の年上の者が来た。
何をしているか、と声と身振りで聞いた。
その者は枝を見せた。魚を指した。
年上の者は笑った。
その笑いの意味を、その者は読まなかった。
枝を下げなかった。