紀元前296,045年
岩の稜線が、北に向かって低くなっている。草原の縁に、古い川床の跡が白く走っている。水は来ない。来ても、砂に吸われて消える。
その者は斜面の下で、獣の骨を持っていた。折れている。先端が尖っている。何かを刺したわけではない。ただ持っていた。
南の台地では、灰の層が薄く積もっている。去年の焼け野原が、雨を経て、また草に覆われている。獣の足跡がある。多い。群れが戻っている。
集団の中で、声が高くなることが増えた。食い物の取り合いではない。別のことだ。誰が先に行くか、誰がどこに立つか、そういうことだ。その者には関係がないはずだった。しかし聞こえてきた。
風が止んだ昼、川床の跡に水が滲んでいた。地の下から来ている。薄い光が、そこだけ違う色で落ちていた。
その者が立ち上がった。骨を手に持ったまま、水の滲む場所へ歩いた。特に考えたわけではない。足が向いた。砂を掘った。骨の尖った先で。
砂が湿った。水が出た。少ない。しかし出た。
集団の上位にいる者が近づいてきた。その者よりも大きく、腕が太い。水を見た。その者の手から骨を取った。同じように砂を掘った。水が増えた。骨は戻ってこなかった。
岩の稜線の向こうで、別の群れの声がしていた。旧い声だ。低く、鼻に響く。人の声と少し違う。ここ数年、その声が近くなっていた。
その者は空になった手を見た。砂がついていた。払った。水の滲む場所を、もう一度見た。誰かが踏んでいた。足跡が上にある。
夜、火の傍で、集団が囲んでいた。その者は端にいた。上位の者が水の話をしていた。音の羅列だ。その者には全部はわからない。しかし水、骨、砂、それだけは聞こえた。
自分の名は出なかった。
草が夜露に濡れる頃、その者は寝場所に戻らなかった。稜線の低いところへ歩いた。旧い声がする方向だ。何があるか、知らない。知りたいわけでもない。ただ歩いた。
稜線の向こうに、小さな火があった。三つ、四つの影が動いていた。旧い顔の者たちだ。額が張り出している。背が低い。火を持っている。
その者は止まった。
向こうも止まった。
何も起きなかった。風が吹いた。草の音がした。その者は来た道を戻った。
五年の終わりに、集団から二人が消えた。旧い声の方へ行ったのか、それとも別の方向へ行ったのか、誰も追わなかった。火は毎夜続いた。水の滲む場所は、雨の後に少し広がった。
その者は骨を持たなくなった。代わりに、石を一つ、常に持つようになった。尖ってはいない。丸い。川床で拾った。何に使うかは、まだ決めていない。
川床の砂に、光を落とした。
この者は骨で掘った。水が出た。骨は取られた。
何かが届いたのか、それとも足が向いただけか。問いに答えは出ない。しかし今度は石がある。丸い石が、この者の手の中にある。何に使うかを決めていないこの者に、次に何を示すべきか。まだ決まっていない。渡す意志だけがある。