紀元前295,685年
雨が多く降った五年だった。
草原の端まで緑が伸び、水場は岩の割れ目からも滲み出た。獣の群れが戻ってきた。子が生まれた。また生まれた。集団の端が見えなくなるほど、人が増えた。
同じころ、遥か遠くの高地では別の群れが動いていた。旧人の足跡が湿った土に深く残っていた。彼らは集団とは違う顔の形をしていたが、同じように子を抱いていた。同じように火を持っていた。ある川の渡し場で、両者は出会い、互いを見た。どちらも岩を持っていた。どちらも岩を使わなかった。
川の南側では、骨と皮で作られた小屋が初めて三つ並んだ。移動をやめた者たちがいた。
始まりの大地の空は、その五年間、ほとんど晴れていた。
雲が来ても、雨を降らせてから去った。
糸が繋がった。
この者は火の番人だ。燃え種を持って歩く。種が消えたら全てが終わると、言葉なしに知っている。
豊かな季節の中で、この者の注意が散漫になっていることに気づいた。食べるものは多い。眠れる。争いも今は遠い。糸は繋がっているが、引きどころがない。
炎が揺れた。風ではなかった。この者の呼気が当たっただけだ。それでも炎は揺れ、影が壁を走った。その影が、一瞬、鳥の形に見えた。
この者は影を見た。
それから火種に木を足した。
影のことを見たか、見なかったか。両方だと思う。受け取ったかどうかではなく、受け取れる形で渡せたかどうかを、私はまだ知らない。次は何を渡すべきか。豊かさの中で眠っていく注意を、どこに向けさせるか。
肉が余った。
珍しいことだった。食べてもまだ残っていた。その者は残りを岩の陰に置いた。誰かが取りに来るかもしれないと思ったのかもしれないし、何も考えていなかったかもしれない。
火の番をした。
朝は燃え種を確かめ、夜は炎を小さく保ち続けた。集団が移動するとき、燃え種を枯れ草で包み、胸の前に抱えた。これが消えたら終わりだと、誰かに教わったわけではなかった。体が知っていた。
子どもが二人、この五年で生まれた。どちらもその者の子ではないが、火の近くで育った。ひとりは走り回るようになった。もうひとりはまだ抱かれている。
ある夜、影が壁を走った。
その者は動かなかった。炎を見た。炎は揺れていた。また見た。
岩を拾った。置いた。
炎に手をかざした。熱かった。手を引いた。
また手をかざした。
眠れなかった。理由はわからなかった。外に出て夜の草の匂いを嗅いだ。集団の寝息が聞こえた。戻った。火の前に座った。夜明けまで、炎を見続けた。