紀元前295,565年
雪解けの水が低地へ流れ込んでいる。
北の尾根は白から灰へ変わった。そこだけではない。星の裏側では、乾いた台地に亀裂が走り、地表の水が地の底へ吸われていく。草が黄ばむより先に、根が腐っている。獣の群れが方角を変えた。何百頭かが、いつもとは違う山を越えていく。
海に面した崖の上では、別の集団が火を囲んでいる。彼らはこの集団とは呼び名が違う。顔の輪郭が似ている者もいれば、背の高い細い体型の者もいる。混じり合いが始まっているのか、終わりかけているのかは、見ただけではわからない。火の前で誰かが腕を広げた。踊るように。それとも何かを追い払うように。
始まりの大地では、集団間の距離が縮まっている。縮まっているが、それは近づいたということではない。
緊張と距離の縮まりは別のことだ。
川沿いの低木が今年も芽吹いた。それだけは、どの集団にも等しく起きた。
風がその方向から吹いた。岩の割れ目の、ちょうど向こう側から。
その者は鼻を上げた。
嗅いだ。立ち止まった。それから荷を下ろした。
この者が何かを感じ取ったとき、いつも体が先に止まる。頭より早く、足が止まる。そのことを、私はずっと見ている。
あの割れ目の向こうに、別の集団の痕跡がある。古い焚き火の跡と、獣の骨と、足の形が残った泥。二日か三日か、それよりもっと前か。
渡したかったのはその情報ではない。
渡したかったのは、立ち止まる習慣だ。
この者はすでに立ち止まっている。しかし立ち止まった理由を、この者はまだ言葉にできない。次に誰かに渡せるかどうかは、言葉になるかどうかにかかっている。言葉にならないものは、この者と一緒に消える。
それでも風を送り続けるべきか。
荷が重かった。
皮と骨と干した実。それだけで背中が曲がる。足の裏に石の感触が上がってくる。尖った石、丸い石、濡れた石。踏むたびに少しずつ違う。
岩の割れ目の前で足が止まった。
止まった理由がわからなかった。何かが鼻の奥で変わった。焦げた匂いでも腐った匂いでもない。ただ違う何かがあった。
荷を下ろした。
割れ目の向こうを見た。見えるものは石と影だけだった。
それでも近づかなかった。
しゃがんで地面を触った。泥だった。手のひらに湿り気が残った。指の跡のような何かがあった。自分の指とは違う形だった。
長い時間、そこにいた。
荷を拾い上げたとき、体の向きが変わっていた。集落への戻り方が、来た道とは少しだけ違う角度になっていた。その者は気づいていなかった。ただ足が、別の道を選んでいた。
その夜、集落の火の前で、その者は片手を岩に当てた。
岩の割れ目の話をしようとして、音が出なかった。
出てきたのは一つの音だった。低く、短い。誰かがそちらを見た。見ただけだった。その者はもう一度、同じ音を出した。
今度は誰も見なかった。
その者は手を岩から離した。火を見た。火は何も言わなかった。