紀元前299,645年
疫病が始まって三つの月が過ぎた。咳は村から村へ、谷から谷へと広がった。最初は老いた者から倒れた。次に子どもたち。最後に働き盛りの者たちも熱に倒れるようになった。
北の大きな集団は半分になった。川のほとりにいた一族は三人を残して全て消えた。山の洞窟に住む者たちは洞窟を封じ、中で死んだ。外から見ると、ただの岩の壁になった。
死体を燃やす煙が空に立ち上る。昼も夜も煙は絶えない。鳥たちがその煙を避けて飛ぶようになった。風向きが変わると、別の場所でも咳が始まる。人々は風上に逃げる。でも風は回る。どこにも安全な場所はない。
生き残った者たちは散らばった。小さな集団になって、お互いを避けるようになった。遠くに人影を見ると、走って反対方向に向かう。火の煙を見つけると、その場所を迂回する。人間同士が恐れあうようになった。
言葉はまだない。でも身振りが変わった。手のひらを前に出して「近づくな」を示す仕草が生まれた。遠くから食べ物を投げて渡すようになった。触れることを恐れるようになった。
旧人たちも病気になった。でも彼らの死に方は違う。静かに横たわり、目を閉じる。苦しまない。まるで眠るように消える。新しい人類だけが咳をして、熱を出して、苦しみながら死んでいく。
森が静かになった。人の声が聞こえなくなった地域が広がっている。動物たちがその静寂に困惑している。いつも人間がいた水場に、今は鹿だけがやってくる。人間の足跡が消えた道を、獣たちが歩いている。
744人。数えられる最後の数になるかもしれない。
燃えている枝を指差した。
その者は枝を拾い、別の枯れ草に火を移した。
炎とは伝わるものなのか。それとも一つずつ生まれるものなのか。
咳をする者たちから離れて歩く。一人でいることが多くなった。
燃えている枝を見つける。拾い上げて、別の場所に火を移す。炎が新しい草に燃え移る。同じ火なのか、違う火なのか。
夜、一人で炎を見つめる。風が吹くと火は踊る。消えそうになると息を吹きかける。朝になると灰だけが残る。でも何かがそこにある。見えないけれど、確かにある。