紀元前295,205年
洪水のあとの大地は、静かに乾いていく。
川の跡に砂が積もった。かつて岸だった場所に、今は泥が固まりつつある。草が根を張りなおすより先に、虫が来た。虫が来ると鳥が来た。
人の集団は高いところへ移っていた。移ったことで生き延びた者がいる。移ることができなかった者もいた。泥の中にとどまったものは、今も泥の中にある。
遠く、大地の別の端では、別の集団が動いていた。旧人の群れだ。彼らは水の跡を辿るように移動していた。湿った地面を踏んで、草のある方へ。古い人と新しい人の間に、今は川が一本増えている。川は境界ではない。川は川だ。水が流れ、両岸の生き物が水を飲みに来る。
集団の中で、ある者が死んだ。高齢だった。泥の中で倒れ、そのまま立てなかった。周囲の者は暫く側にいたが、やがて立ち去った。その場所に骨が残るかどうかは、次の雨次第だ。
この星は乾いていく。乾くことは次の濡れに向かうことだ。どちらが先でどちらが後かを、この星は問わない。
泥の底から、陽光の当たる場所に、死んだ獣が腹を見せていた。
腐りかけている。羽虫が群れている。この者は近づいて、じっと見た。
嗅ぎながら立ち去った。使えないと思ったのか、それとも別のことを考えたのか。腸の中に残った種が、この者の目に映ったかどうか——それが気になる。腐敗と再生を同じ場所に見た目が、次に何を探すか。もう一度、近づかせるべきか。
洪水の水が引いてから、四度の夜が経った。
足元の土は、踏むとまだ沈む。草が少ない。地面の色が変わっている。以前あった岩が、別の場所に移動していた。この者はその岩を一周した。触れた。知っている岩だった。しかし場所が違う。
集団は丘の上にいる。この者だけが降りてきた。
川の新しい流れを目で追いながら、岸を歩いた。獣の痕跡を探した。足跡は泥に残っていたが、古かった。洪水の前のものかもしれない。それとも洪水の後に通った獣が、また去ったのか。この者には区別できなかった。
腐った獣が横たわっているのを見つけた。腹が膨れ、皮が裂けていた。虫が音を立てていた。
近づいた。
鼻の奥に入ってくる匂いで、歩みを止めた。風が川の方向から来ていた。同じ方向に、もう一つの匂いが混じっていた。腐敗の下に、土の匂い。草の匂い。
この者は獣の腹を見た。裂けた皮の隙間に、植物の茎のようなものが見えた。虫の動きで、それが揺れていた。
手を伸ばしかけて、止めた。
引いた。
草が短く生えている場所まで戻った。座った。手のひらで地面を押した。土が指の間から出てきた。押した。また出てきた。
しばらくそうしていた。
集団の方向から声が聞こえた。子どもの声だった。この者は立ち上がり、丘へ向かって歩き始めた。腐った獣のことを、まだ思っているのかどうか、この者の表情は何も言わない。
ただ足が、丘を登った。