大地が東から割れ始めた。
泥の底に水脈があったところ、今はひびが走る。長い筋が大地を引き裂いて、白い粉が表面に浮いた。雨季が来なかった。次の雨季も来なかった。雲は遠い山の上でだけ重くなり、こちら側には何も落とさなかった。
その者は荷を運んでいた。乾いた草を束ねたもの。縛る紐の代わりに、長い茎を何度も巻いた。うまく止まらない。歩くたびにほどけかけ、抱え直すたびに別の束が落ちた。
集団の移動は遅くなった。子を持つ者は子を背負い、老いた者は歩みが乱れた。北の集団が同じ場所に向かっていた。足跡の方向が重なっていた。土が掘り返され、木の根の白い断面が露出していた。誰かが先にそこを掘ったということだ。食べられるものが減った後の跡だということだ。
その者は先頭を歩く者を目で追った。その者より二十歳以上年上の、肩幅の広い者。立ち止まり、地面を踏み、また歩く。その動作が集団全体の向きを決めた。その者には决める力がない。まだない。
南の乾燥地帯では、別の種の者たちが水場を囲んでいた。顔の形が違う。眉の骨が出ている。声が低い。しかし同じように水の前で立ち止まり、同じように水を手で掬い、同じように飲んだ。水に優先順位はない。渇いているか、渇いていないかだけがある。
その者の集団が水場に着いたとき、先の者たちはもういなかった。水は残っていた。少し。岩の影に溜まった分だけ。その者は列の後ろから近づき、順番を待った。自分より先に飲む者が何人もいた。待つ間、その者は足元の石を見ていた。丸い石。割れた石。尖った欠片。
光が石の欠片のひとつに落ちた。午後の日差しが低くなって、岩の端から差し込んだ。その欠片だけが白く光った。薄く、鋭い。
その者は屈んで拾った。手の中で持ち替えた。角度を変えた。端が細くなっている。
何かが死んだ。
幼い者が夜に動かなくなった。まだ歩けない年齢の者。腹がへこみ、声が出なくなった日から、それほど時間が経たなかった。母親が一晩、抱いたまま座っていた。朝になっても離さなかった。集団は動けなかった。昼になって、誰かが母親の肩に触れた。母親は顔を上げなかった。もう一度触れた。ようやく、力が抜けるように子から手が離れた。
土を掘る音が続いた。その者も掘った。爪の下に土が入った。
移動が再開したとき、集団は出発前より小さくなっていた。子だけではなかった。水が足りず、歩けなくなった者が三人いた。岩の陰に座ったまま動かなかった。集団が遠ざかっていくのを見ていたか、目を閉じていたか、その者には見えなかった。振り返らなかった。
石の欠片は、その者の手の中にあった。
尖った端で、皮を引っ張ってみた。裂けた。乾いた木の皮ではない、獣の皮だ。誰かが捨てていったものを拾っていた。欠片がそこに入る。奥まで入った。
別の集団と道が交差したとき、問題が起きた。
言葉が通じない。身振りが違う。相手の集団は数が多く、こちらの倍近くいた。水場を巡って声が上がった。怒鳴り声。石が飛んだ。その者は荷を抱えて低くなった。前の者の背中に顔をつけるようにして座り込んだ。石の欠片が手に当たった。その者は手を握った。
争いは長くならなかった。こちらの集団が引いた。力の差は明らかだった。
夜、その者は集団の端に座った。火が小さく燃えていた。木が少ない。遠くに別の火が見えた。あの集団の火だ。近くにいる。
その者は石の欠片を取り出した。指の腹に当てた。押した。血が滲んだ。見た。なめた。また押した。
人を刺せる。
その思考が言語になるほど、その者の言語は育っていなかった。しかし体は知っていた。手の先の尖ったものが何をできるか、体の中の何かが応えていた。応えた後、その者は手を開いた。欠片を地面に置いた。
また拾った。
数日後、集団の中の一人がその者を呼んだ。何かを話した。声の調子が低い。目が細くなっている。その者には言葉の意味が半分しか取れなかったが、声の質は分かった。怒りではない。疑いだ。
その者が知っている何かを、他の誰かが見ていた。
その者は答えなかった。声を出さなかった。手を後ろに引いた。欠片が手の中にある。
夜が来た。
その者は集団の端から少し離れた場所に座った。星が出ていた。乾いた空気の夜は星が多い。その者は空を見なかった。地面を見ていた。欠片を土の上に置き、また拾い、また置いた。
集団から声が聞こえた。話し合うような音。その者の方を向いている気がした。気のせいかもしれない。
その者は立ち上がった。欠片を持ったまま、火から離れた方向へ歩いた。暗い方へ。
足音が後ろから聞こえた。
早い。
その者は走らなかった。走れる体力がなかった。欠片を強く握ったまま、歩き続けた。足音は追いついてきた。肩に手がかかる前に、その者は振り向いた。
顔が見えた。知っている顔だ。長年同じ集団にいた者。目が光を受けていた。星の光か、遠い火の光か。
その者は欠片を見せた。手を開いた。
相手が止まった。
それだけだった。相手は後ずさりし、やがて見えなくなった。
その者は座った。土の上に直接。長い間、動かなかった。星が動いた。体が冷えた。夜露が肌に落ちた。
夜明けが来たとき、その者は集団の場所へ戻った。火は消えていた。
集団はいなかった。
足跡は北へ続いていた。
その者は北を見た。足跡を見た。また北を見た。
歩き始めた。
追いつけるかどうかは分からなかった。その者にも分からなかった。ただ足跡がある方向へ、一歩ずつ進んだ。欠片は手の中にある。
「始まりの大地」の空では、雲がまだ来なかった。大地の割れ目は広がり続けた。水場は減った。しかし遠い南の海岸では、波が岩を削り、岩の中から別の鉱石が顔を出していた。誰も見ていない場所で、何かが生まれ、何かが失われ、時間が経った。
その者の足跡が、白い乾いた土の上に残った。