紀元前294,605年
火を見ていた。
三十年以上、この者は火を見ていた。炎が低くなれば枯れ枝を足した。雨が横から打ちつける夜は、体を壁にして風を遮った。集団の誰かが夜中に水を求めて動くとき、火はまだそこにあった。この者がそこにいたから。
南の窪地に移って何十日が経ったか。地が揺れる前の岩の匂いをまだ覚えていた。獣の足が止まった場所に、何かが変わる前兆があったことも。しかしそれを伝える言葉を、この者は持っていなかった。
体が重くなったのは、朝の薪を運べなくなった頃からだ。
腕が言うことを聞かない。枝を握ると、握ったつもりで落とす。集団の若い者が、黙って枝を拾って火に入れた。この者はそれを見ていた。何も言わなかった。言葉がなかったし、言葉があっても言わなかっただろう。
夜、炎の向こうで子どもが眠っているのを見た。
昨年生まれた子だった。まだよく転ぶ。火の近くに来ては追い払われ、それでも近づいてくる。この者にだけは、追い払われずに側にいることができた。なぜかはわからない。炎の色が子どもの顔に落ちるのを、この者はただ見ていた。
排除は静かに来た。
知りすぎた、と集団は思っていない。思う言葉を持っていない。ただ、この者のそばにいると何かが起きると、体の奥で感じていた。大きな揺れの前、この者が立ち上がった方向に揺れが来た。それだけのことだ。しかし繰り返せば、何かになる。何かに、なった。
食べ物が来なくなった日があった。
この者はその日、水だけ飲んだ。翌日も、食べ物は来なかった。この者は火から離れなかった。火の番を誰かに渡すことを、知らなかったからではない。渡せなかったのだ。体が、まだそこにいると言っていた。
三日目の朝、立てなかった。
座ったまま、炎を見ていた。炎は低かった。誰かが枝を足すだろう、と思った。思ったかどうかもわからない。ただ炎を見ていた。
子どもが近づいてきた。
この者の手に触れた。冷たかったのか熱かったのか、子どもにはわからなかっただろう。この者の手は、子どもの手の上にあった。重くもなく、軽くもなく。
炎が揺れた。
風ではなかった。
草原の北、乾いた砂地に旧人の集団がいた。火を使わない。獣の骨で地面を掘り、虫と根を食べる。子が一人、砂の上に立って空を見ていた。雲が速く流れる日だった。子は何も言わなかった。集団はすでに別の方向へ歩いていた。
糸は別の誰かへ向かった。