紀元前294,485年
草原の縁に森が迫っている。
この季節、空は高く、乾いた風が地面を舐める。草の穂が一方向に揺れて、また戻る。太陽は早く沈む。夜が長い。
群れは川沿いの岩棚の下にいる。岩肌が南向きで、昼の熱を夜まで保つ。子どもが多い。三つ、四つ、五つ。走り回る小さな足が土を叩く。乳飲み子を抱いた者が岩に背を預けて目を閉じている。
遠くの森の縁では、別の群れが動いている。額の骨が厚い。眉弓が張っている。彼らも川を使う。上流と下流に分かれているが、雨が続いた後は水場が重なることがある。そのとき、互いに動きを止める。目が合う。どちらも声を出さない。どちらも近づかない。やがて一方が退く。
退くのはいつも同じ側とは限らない。
岩棚の群れでは今夜、焼いた肉を分ける。大きな者が先に手を伸ばす。小さな者は端に座る。火が風で傾く。誰かが身をかがめる。
3歳の子が火の方へ歩いていく。誰かが腕をつかんで引き戻す。子は声を上げる。
夜が、静かになる。
糸が繋がった。
温度が変わった。岩棚の陰、子どもが座る場所の石が、周囲より少しだけ冷たかった。その子は手のひらをそこに置いた。
受け取ったかどうか、わからない。ただ手が止まった。
冷たいものに触れて、手を離さなかった。それだけだ。次に何を渡すか、まだ決まっていない。渡すべきものは、この者がどこを向くかによって変わる。
冷たかった。
手のひらを石に押しつけた。火の熱が背中にある。前は冷たい。後ろは熱い。その真ん中に、自分がいる。
兄が走ってきて、腕をつかんだ。引っ張られた。転んだ。膝が土についた。泣かなかった。泣く前に兄がもう別の方向へ走っていたから。
肉は端の方にある。小さくて、骨に近い。嚙んだ。硬かった。飲み込んだ。
夜、岩棚の奥で体を丸めた。母親の背中のすぐそばに。匂いがした。汗と土と、少しの血。その匂いの中で目が重くなった。
石の冷たさを、手のひらが覚えていた。
眠る前に、手を握った。何も持っていない。それでも握った。
朝、目が覚めたとき、手はまだ握られていた。