紀元前294,125年
群れが北の台地へ移って五回目の雨が来た。
その者は台地の端に立つことが多かった。崖ではない。ただの、草が途切れる場所。そこから先、赤土が剥き出しになっているだけの場所に、足を止める習慣があった。
理由はない。強いて言えば、そこにいると風が正面から来た。
排除は突然ではなかった。
群れの中で、長老の男が食料の分配を決める。その者は長老の目が自分に止まるたびに、体が少し固くなることに気づいていた。何かを「知っていた」わけではない。ただ、長老が指を折りながら何かを数えるとき、その視線がこちらに来ることがあった。
何を数えていたのか。その者にはわからなかった。
ある朝、目が覚めると、周囲に誰もいなかった。
群れが移動したのではない。その者だけが、少し離れた場所に寝ていた。それだけのことだった。食料は渡されなかった。火の傍には座れなかった。
その者は台地の端まで歩いた。
草が風で波打っていた。いつもと同じ風だった。
腹が鳴った。二日目も、三日目も。
その者は草の根を抜いて噛んだ。苦かった。吐き出した。また噛んだ。
夜は冷えた。火がなかった。体を丸めて草の中に潜ったが、草は薄く、地面は硬かった。
四日目の朝、立てなかった。
膝をついたまま、しばらくそこにいた。空が白くなっていく過程を見ていた。雲が一枚、北から来て、南へ消えた。
その者の指が、土の中に少し埋まっていた。無意識に押し込んだのか、倒れたときにそうなったのか、自分でもわからなかった。
冷たかった。土が。
それだけが、はっきりしていた。
光が、草の一点に落ちた。
斜めに差し込む朝の光だった。その場所に、小さな虫が一匹、葉の上を歩いていた。その者の目がそこに向いた。虫は止まった。また歩いた。
その者はそれを見ていた。
見ながら、手を伸ばそうとした。届かなかった。
手が土に落ちた。
虫はまだ歩いていた。その者が動かなくなっても、虫は葉を渡り、草の茎を降りて、土の中に消えた。
風が来た。草が揺れた。
始まりの大地から遠く離れた、湿地と岩盤の境に暮らす旧人の群れがあった。その夜、若い雄が岩から足を踏み外し、水の中に落ちた。暗い水だった。声を上げる間もなかった。朝、湿地に何かが浮いていた。仲間の一人が水際まで来て、見た。長く見た。それから戻った。
糸は別の誰かへ向かった。