紀元前293,645年
台地の北端、岩の裂け目に溜まった水が干上がりはじめていた。
雨季の終わりが早かった。草の先が白く枯れ、泥の中の足跡が固まって、獣の通り道が石のように凝った。低木の実は甘かったが、数が減っていた。
集団の者たちは水を探して移動した。老いた者が遅れ、幼い者が泣き、火を持つ者が前を歩いた。岩だらけの斜面を越えると、別の集団の匂いがした。煙と、乾いた皮膚の匂い。
遠くの平原では、別の種の者たちが同じ水場に近づいていた。背が低く、眉の骨が厚く、移動の仕方が違った。彼らは急がなかった。水を飲み、立ち去った。何も言わなかった。
南の密林では樹上に巣を作る者たちがいた。彼らは火を使わなかった。夜になると声を重ねて眠った。
星は全員を照らした。水場に近づく者も、樹上で声を重ねる者も、平原をゆっくり歩く者も。
区別はなかった。
ただ、台地の上で火が小さくなっていた。
水場の近くで、足元の石が熱を持っていた。
昼の岩の温度ではなかった。その石の下に水の気配があった。
渡したのは温度だった。その者の足裏に、ほかの石とは違う熱さを。
その者は足を止め、岩を見下ろし、また歩きはじめた。
気づいたのかもしれない。気づいていないかもしれない。前にも足裏から何かを拾った者がいた。別の星で。その者は掘った。水が出た。集団は三年生き延びた。三年後に全員死んだ。
渡し続けることが正しいのか、という問いには答えがない。ただ、次に渡すものは決まっている。掘るための石だ。
日が高いうちから、子どもたちが泣いていた。
水の声だとわかっていた。水がないと腹が鳴る前に喉が鳴る。その者はそれを知っていた。四十年以上、喉が鳴るたびに水を探してきた。
岩場を歩いていた。
足の裏が熱かった。
熱い岩はたくさんあった。しかしその石は違った。脚の裏からではなく、何か別の場所から熱が来るような気がした。腹の奥に近い場所。
その者は立ち止まった。
しゃがんだ。
両手で石を押した。石は動かなかった。もう一度押した。指の腹に硬さだけが返ってきた。
立ち上がり、また歩きはじめた。
十歩ほど進んで、振り返った。
石があった。
その者はしばらくそれを見た。子どもの泣き声が遠くから来た。集団の者が名を呼ぶ声が来た。その者は声の方へ向かった。
夕方、水場は見つかった。岩の裂け目から滲んだ程度のものだったが、幼い者たちは順番に顔を近づけた。
その者は火の番をしながら、さっきの石のことを考えていた。
考えていた、というより、体が覚えていた。足裏の熱さ。脚の奥の、何かが動いた感じ。
何もしなかった。
それでも体は覚えていた。