乾いた季節と雨の季節が三度、入れ替わった。
台地の縁に沿って、集団は動いた。水場が近い岩棚を見つけると、数十日そこに留まった。去り際には何も残さなかった。残す理由がなかった。
その者は岩棚の端に座って、石を割っていた。膝の上に台石を置き、打石を握る。角度は体が知っていた。頭が考える前に手が動いた。欠片が飛ぶ。縁を親指で確かめる。まだ厚い。もう一度。
空の半分が雲に覆われる日が続いた。動物の群れが南へ移った。集団の中で声が荒れた。食べるものが減ると、声が変わる。その者はそれを知っていた。知っていたが、何も言わなかった。
若い者が数人、その者の近くに来て、石を割る様子を見た。その者は振り返らなかった。見られていることは分かった。分かった上で、何も教えなかった。石は自分のものだった。技も自分のものだった。
集団の中に旧人が二人いた。体が大きく、言葉を持たなかった。声だけで意図を伝えた。その者とは近づかなかった。お互いに近づかなかった。
その年の終わりに、食べ物を巡って争いが起きた。夜、誰かが誰かを殴った。朝になると、一人が岩棚の下にいた。動かなかった。集団は半日そこに留まり、それから移動した。
その者は最後に立ち、倒れた者を見た。石を一つ、そこに置いた。置いた意味を自分でも分からなかった。置いてから、歩いた。
岩棚を離れた後、草原を二十日歩いた。水場を見つけるたびに、集団の速度が落ちた。その者の膝が痛んだ。熱を持つようになったのは三年前だが、今年は夕方だけでなく、朝も痛んだ。歩くたびに、熱があった。
川沿いの低地に着いた。葦が生えていた。鳥が多かった。食べるものがあった。集団は留まることにした。
その者は川の近くに場所を作り、石を割り始めた。石が少なかった。良い石を探すために、上流に向かって歩いた。一人で歩いた。川床に、赤みがかった石が幾つか転がっていた。
その石を持ち帰り、試した。固かった。打つと音が違った。縁の立ち方が違った。その者は少し間を置いた。また打った。
匂いが変わった。
水が腐りかけている場所の、少し手前。その者の鼻が動いた。立ち止まった。右の岸に赤みがかった石が二つ、並んでいた。その者の目がそこへ向かった。
受け取った。
そこから先のことを、渡すものは持っていない。どう使うかは、この者が決める。良い縁になるか、誰かの体に向くかは、関係のないことだ。石は石だ。
ただ、これが届いたのは何度目になるのか、と思う。届いたことが何に繋がるかより、届くことそのものに、まだ意味があるかどうか、を問い続けている。前の星では、最後まで届かなかった。この星でも、届いた後に何が起きるかは、まだ分からない。
次に渡すものがある。渡す場所を、まだ探している。
赤い石で作った刃は、よく切れた。
その者はそれを使い続けた。皮を剥ぐとき、肉を分けるとき。集団の中で、その刃の切れ味が目立ち始めた。誰かが欲しがった。その者は渡さなかった。
渡さないことが問題になった。
誰かが何かを言った。その者は何も言わなかった。睨んだだけだった。
それが続いた。
最後の夜、その者は少し離れた場所で一人、火の横に座っていた。赤い石の刃を膝の上に置いていた。膝が熱かった。火も熱かった。どちらがどちらの熱かを、区別しなかった。
後ろから来た者のことは、分からなかった。
体が傾いた。石が手から離れた。火が揺れた。それだけだった。