紀元前299,405年
尾根を見張る。三日目の朝だ。
足音が聞こえる。遠い。石を蹴る音。東から来る。まだ見えない。
手の中で石を握る。投げる石ではない。叩く石だ。重い。
東の斜面に影が動いた。三つ。四つ。数える。六つ。多い。
声を出す。短く。低く。仲間に知らせる音だ。返事が来る。下から。わかった、という音。
六つの影がゆっくり降りてくる。こちらの集団ではない。顔を知らない。槍を持っている。
また声を出す。今度は長く。警告の音だ。
六つの影が止まった。こちらを見ている。距離がある。まだ遠い。
仲間の足音が後ろから聞こえる。四人来た。槍がある。石もある。
六つの影のうち、前の一つが手を上げた。何かを持っている。肉だ。動物の肉。差し出している。
交換の印か。それとも罠か。
肉の匂いが風で運ばれてくる。新しい。血の匂い。獲れたばかりだ。
仲間の一人が前に出た。手に石斧を持っている。様子を見る。
六つの影も一歩前に出た。槍を下げている。戦う構えではない。
風が変わった。今度は自分たちの匂いが向こうに流れる。
六つの影がざわめいた。何かを話している。こちらの言葉ではない。音が違う。
肉を持った影がもう一歩前に出た。地面に肉を置いた。後ずさりした。
仲間が振り返る。どうする、という目だ。
五年の間に、境界が曖昧になった。
始まりの大地の東端で、二つの集団が出会うことが増えた。一方は石を削り、火を絶やさず、洞窟に絵を描く者たち。もう一方は背が低く、眉骨が張り、異なる音で語る者たち。
交換が始まっていた。肉と石。毛皮と火種。時には子も。言葉が通じずとも、手の動きで意思を伝える。
しかし緊張もあった。水場での小競り合い。狩場の重複。時として血が流れた。
北の山麓では、新しい洞窟が見つかった。広く、水が近い。両方の集団がそこを欲した。今は誰も住んでいない。様子を見合っている。
気候は穏やかだった。雨が適度に降り、獣も多い。両方の集団が数を増やした。子が多く生まれ、より多くが成人まで生きた。
だが豊かさは新たな問題を生んだ。食べる場所が足りない。住む場所も足りない。若い者たちが新しい土地を求めて動き回る。
夕暮れ時、遠くの山から煙が上がることがある。新しい火だ。新しい集団だ。誰のものかはわからない。
見張りの者たちが報告する。異なる足跡。異なる道具の跡。この大地に、もう二つの集団だけではない。
変化の時が近づいている。
水面に映る顔が揺れた。その者の目がそこに留まった。
水の中の顔は、その者の顔だった。だが何かが違って見えた。
その者は水を飲もうと屈んだが、飲まなかった。ただ見つめ続けた。
これは始まりなのか。終わりなのか。