紀元前299,285年
五つの集団が川沿いに暮らしている。上流では子どもたちが魚を追い、下流では長老が骨を削る。中流の岩場で二つの集団が出会った。互いの持つ石を見せ合う。鋭い石と丸い石。どちらも手に馴染む。
谷の向こうでは別の声が響く。この川を知らない人々が山を越えてきた。彼らは火を別の方法で起こす。木と木を擦り合わせる。煙が立つ。風が運ぶ。
森の奥で一人の者が倒れている。昨日から動かない。そばを小動物が通り過ぎる。日が沈み、また昇る。森は変わらず緑を保つ。
川は流れ続ける。五つの集団は互いを見、互いを避ける。時に近づき、時に離れる。季節が巡るように。石が水に削られるように。
湿った土の匂いがそこから立った。
その者は足を止めた。他の者たちは先を急ぐ。一人だけがその場に残る。
土に触れると冷たい。指の間に入り込む。
この匂いを覚えておくだろうか。
朝になると皆で歩く。昨日とは違う方向。川の音が遠ざかる。
土が足の裏に付く。湿っている。匂いがする。立ち止まる。皆が振り返る。手招きする声。しかし足が動かない。
土を掬う。鼻に近づける。雨上がりの匂い。でも雨は降っていない。不思議な匂い。
父が戻ってくる。肩を叩く。歩けという身振り。土を見せる。父は首を振る。歩けと繰り返す。
土を捨てる。手に匂いが残る。歩き始める。振り返ると、その場所がまだ見える。記憶の中で匂いが続く。
夜になってもその匂いが鼻の奥にある。なぜだろう。他の匂いは忘れるのに。
翌日も歩く。また翌日も。土の匂いは薄れない。時々立ち止まって地面を嗅ぐ。似た匂いを探す。見つからない。
五日目。雨が降った後の朝。地面から同じ匂いがした。走って皆を呼ぶ。地面を指差す。匂いを嗅げという身振り。
父が膝をつく。地面に鼻を近づける。頷く。何かを理解した顔。
その日から雨の後の朝は特別になった。皆で地面の匂いを確かめる。何かが始まる匂い。何かが育つ匂い。