紀元前291,965年
水が引いた。
三日かかった。まず岩の頭が出た。次に根が現れた。白い根が空気に触れて、半日で茶色くなった。地面はまだ踏むと沈む。足が埋まる。
その者は浅いところを選んで歩いた。足首まで泥に入るたびに、引き抜く音がした。ぬるかった。
乾いた丘の向こうで、別の者たちがいた。体格が違った。眉の骨が前に出ていた。五人か、六人か。火の匂いを残して動いていた。獲物を追っていた。どこへ行くかは彼ら自身も知らなかった。
同じ空の下だった。同じ雨が降り、同じ水が地面を削った。
その者は崖の縁に立った。下に川があった。水は引いたが流れは速かった。濁っていた。
上流から何かが流れてきた。大きな木の枝だった。枝は岩にぶつかり、少し止まり、また流された。
その者は見ていた。岩が枝を止めたことを。
群れの中で老いた者がいた。歩くのが遅くなっていた。食べる量が減っていた。若い者が獲ってきた肉を、老いた者は少しだけ受け取った。残りを返した。
夜、老いた者は火の近くに座った。離れなかった。
川の音がうるさかった。
その者は岩の上に座って、水面を見た。日が傾くにつれて、光の角度が変わった。水の中の光が揺れた。光が揺れているところに、岩の影があった。影が動かなかった。
その者は岩を見た。水が当たっているのに、岩は動かなかった。
手に持っていた小石を、川に投げた。流された。
別の群れが近づいていた。
その者の集団は、においで気づいた。朝、風が変わった。獣ではない。火の匂いが混じっていた。
若い者が二人、高い場所に登った。その者も登った。
遠くに動くものが見えた。人だった。数は多かった。
降りてから、その者は石を拾った。手の中で転がした。角がある石だった。握ると手に食い込んだ。
それを持ったまま、その者は眠れなかった。
近づいてきた者たちは止まった。
こちらも止まった。
火を挟んで、二つの群れが向かい合った。言葉はなかった。いや、音はあった。しかし意味は重ならなかった。
眉の骨が出た者たちは、子どもを前に出した。
子どもは細かった。腹が出ていた。
こちらの老いた者が、煙られた肉を一切れ、地面に置いた。
その者は老いた者の動きを見た。
肉を置いた手が、しばらく地面についたままだった。
それから老いた者は後ろに下がった。
子どもが肉に近づいた。食べた。
別の群れの大人が、何か言った。低い音だった。何度も繰り返した。
その者には意味がわからなかった。しかし、音の形を、口の中でなぞった。声には出さなかった。なぞっただけだった。
夜が来た。二つの火が、少し離れて燃えた。
消えなかった。
老いた者が、夜中に動かなくなった。
誰も気づかなかった。朝、隣で寝ていた子どもが触れて、初めてわかった。体が冷たかった。
その者は近づいた。老いた者の顔を見た。目は閉じていなかった。半分開いたまま、火の灰のほうを向いていた。
その者は、老いた者の目に手をかざした。光を遮った。何もしなかった。ただ、手をかざした。
別の群れは、夜明けに出発した。
子どもが振り返った。それだけだった。
その者は手を降ろした。
老いた者の目は、まだ灰を向いていた。
川の音がうるさい夜、水中の光が揺れていた。岩の影だけが動かなかった。熱が、そこだけ違った。岩の表面のほうが、水より少し温かかった。
その者は岩に触れた。
それで十分だったかもしれない。あるいは何も起きていないかもしれない。岩が止めるということと、流されるということが、同じ夜に体に入った。老いた者が肉を置いた。子どもが食べた。その者は音を口の中でなぞった。
どれが残るのか。
何かを渡したという感覚と、届いていないという感覚が、毎回同じ重さで来る。重さが変わらないことが、答えなのかもしれない。それとも、まだ問いの形をしていないのかもしれない。次に渡すべきものが、そこにある気がした。